Before — 紙の生産指示書が抱えていた課題
この基板実装メーカー様(製造業)の現場では、多品種少量生産という特性上、生産指示書を毎日30〜50枚、すべて手書きで作成していました。1枚あたりの作成時間は約15分。段取りや品質管理に充てるべき時間の多くが、指示書づくりに奪われている状態でした。
加えて、手書き転記にはミスがつきものです。取引先から届く注文書の内容を人の目で読み、手で書き写すという工程が、案件数の分だけ繰り返されます。転記ミスによるクレームが月に数件発生していたことも、現場にとって見過ごせない課題でした。指示書は工場長・リーダーの承認を経て現場に配布される運用でしたが、この承認と共有のやり取りも紙ベースで行われており、承認漏れや配布遅れが起きるリスクも抱えていました。
何を変えたのか — 大型刷新ではなく「今の業務フロー」に寄り添う自動化
私たちが最初に取り組んだのは、既存の業務フローを大きく変えることではなく、今のフローの中にある「手作業の部分」だけをピンポイントで自動化することでした。基幹システムを入れ替えるような大がかりな刷新は行わず、既にお使いのGoogle Workspaceを土台に、必要な機能だけを内製で開発する方針を取っています。
受注入力からPDF自動生成へ
具体的には、Webフォームから受注内容を入力すると、生産指示書のPDFを自動生成する仕組みを構築しました。手書きで一枚ずつ作成していた作業が、フォーム入力とワンクリックの操作に置き換わります。
承認フローと配布の自動化
リーダーから工場長への承認フローもスプレッドシート上に整備し、承認された指示書は関係者全員へ自動でメール配信されるようにしました。紙の回覧にかかっていた時間と、配布漏れのリスクの両方を同時に解消しています。
AI-OCRによる転記レス化
さらに、取引先から届く注文書PDFをAI-OCRで読み取り、転記作業そのものをレス化しました。紙を人が読んで手で打ち込むという工程を、AIによる自動読み取りに置き換えたことで、転記ミスの発生源を根本から減らしています。
なぜ一気に変えなかったのか
今回の取り組みで意識したのは、生産指示書の自動化を「最終形」として一度に作り込まないことでした。既存の業務フローを土台にしながら、初期構築費をいただかず月額の伴走費のみでご支援する形を取ることで、投資判断のハードルを下げつつ、現場の反応を見ながら機能を一つずつ積み上げていきました。大がかりなシステム開発では、要件を固めてから完成までに数ヶ月かかることも珍しくありませんが、段階移行であれば、現場で「使いにくい」と感じた部分をすぐに次の改修に反映できます。
現場に定着させる工夫
新しい仕組みは、どれだけ優れていても現場が使わなければ意味がありません。私たちは「作って終わり」にせず、隔週の定期訪問で現場の使い勝手を確認し、細かな改善を重ねながら定着まで伴走しました。承認フローを従来の紙の回覧に近い感覚のまま電子化したことも、抵抗感なく移行できた要因の一つだと考えています。ツールの使い方のレクチャーや運用の仕組みづくりまでを支援に含め、現場の皆様が自分たちで使いこなせる状態をゴールに置いて伴走を続けています。
特に、承認者である工場長やリーダーが「紙で見ていたときと同じ感覚で確認できる」ことを重視しました。デジタル化によって現場の負担がかえって増えてしまっては本末転倒です。使う人の目線に立って一つずつ手直しを重ねたことが、大きな混乱なく運用を切り替えられた理由だと考えています。
生産指示書の先へ — 段階移行だからこそ広がった範囲
生産指示書の自動化は、あくまで最初の一歩でした。同じ現場では、この取り組みを土台に、実装ラインの生産計画(自装計画)の自動化、約120名が毎日利用する勤怠管理のアプリ化、部品表(BOM)の転記自動化(1案件あたり3〜5時間かかっていた作業を5〜10分に短縮)、納品書・請求書・受領書の同時発行など、紙とExcelで行っていた業務を一つずつデジタル化する取り組みへと広がっていきました。最初から全体構想を描いて一気に作り込むのではなく、一つの成功を足がかりに次の範囲へ広げていく——このやり方だからこそ、現場の抵抗を最小限に抑えながら着実に前進できたと考えています。
数値で見る成果
- 1枚15分 → 1分(生産指示書の作成時間)
- 月20時間以上削減(指示書関連の作業時間)
- ほぼゼロに(転記ミスによるクレーム)
紙とExcelが主体の現場でも、いきなり全てを変えるのではなく、負担の大きい工程から段階的に置き換えていくことで、無理なく確実な成果につなげられます。大がかりなシステム投資に踏み出す前に、まずは今の業務フローのどこに手作業が集中しているかを洗い出すことから始めてみてください。